編集長ヘッドライン日記 バックナンバー
2001.9月



9月27日(木) 情報戦で負けそう

 月末だからも知れないが、やたら忙しい。頼まれ原稿が溜まって、身動きがつかない。

 正午、芝・増上寺で行われた、敬愛する藤山洋吉氏の葬儀にも行けず、生花をおく る。

 洋吉さんはあの怪物・雷太さんの倅、愛一郎さんの弟。大変、律儀で、分をわき まえ、利を追わぬ、誰よりも馬を愛したジェントルマンだった。89歳。

 機会があれば、彼の爽やかな生き様を書きたい。

 小泉さんが国会で元気良く「参戦宣言」?

 週刊誌をやっていた時期が3年ほどあって、その経験からすると「戦争は売れる」。 だから、週刊誌は「核戦争必至。ビンラディンの標的」風の記事が氾濫する。戦争モノ は「行け行けドンドン」が売れる。だから論調は「それ行け、小泉」になる。これを応 援歌のように心得る小泉さんは危険だ。

 いま、情報戦。世界に流れる情報はまず疑ってかかるのが常識である。その半信半疑 の情報を取捨選択する危機管理能力が欲しい。

 同時テロが起こった時「危機管理内閣を作り、後藤田さんのような危機管理の専門家 を入れたら」とこの日記に書いた。もし、後藤田さんだったら、自衛隊派遣に反対した だろう。彼は冷静に判断する術を持っている。長いレンジで、幸せを考える情報分析能 力を持っている。

 小泉内閣はタレント性一杯で「革新のムード」を作る利点を持っている。それは、意 味があると評価している。しかし、情報戦で、果たして「じっと待つ姿勢」が取り切れ るか。甚だ、不安だ。

 憲法守って国滅びる、も困る。しかし、正義の小泉、おっちょこちょいで国滅ぼす、 も困る。情報戦に強いクールな人が欲しい。

 夕方から、仕事場で「気に入った仲間」の飲み会。うまい酒とうまい肴を持ち寄って 、勝手なことを言い合う「×爺会」。メンバーの最高齢の名前を一字もらって「柳橋× 爺会」。お説教がうまい×爺のペースで11時まで。愉快だった。

 深夜、原稿の合間に掲示板を見ると、結構、痛烈なやりとりが展開されている。

 でも、最近会った友人の印象では「WEBの中では、魁の掲示板は一番冷静だ」との こと。

 こんな考え方もあるのか、と深夜、掲示板で勉強する毎日。良質なラジオ・テレビ、 新聞、雑誌、WEB、バランスを取って、恒に受信する。やがて、嘘を見破ることが出 来る。参考書は歴史本。それに50数年前の報道。

 毎日新聞が、朝日新聞が「行け行けドンドン」になった頃の失敗を学べば、少しは冷 静になれるような気もする。

<何だか分からない今日の名文句>

会うは別れ



9月26日(水) シルクラトゥール引退す

 一口馬主の有限会社シルクホースクラブからシルクラトゥールの引退通知が来た。

 奴はラムタラの初年度産駒。名血・Luth de saronを母に持ち、アイル ランドで生まれた。

 平成11年5月6日、来日。北海道のファンタストクラブに入った。

 ラムタラの良血に魅力を感じ、一口馬主になったのはその頃だった。一口16万円。 500口で総額8000万円の大変な馬だ。

 でも、良血が走るとは限らない。

 平成12年4月、左前脚の爪に裂蹄。藤沢厩舎に入ったが気分的なムラがある。それ でも平成3年2月4日、4歳で遅いデビュー。12着。3月4日、中京で2戦目、8着 。レース後、足を気にして、レースの最中、他馬と接触し、怪我をしていた。

 その怪我がどうしても治らない。やむなく引退となった、との通知である。

 奴の行く末が心配だったが、千葉県のオリンピッククラブで乗馬になるらしい。良か った。

 シルクでは未勝利で引退すると、出資金の約50%程度が補償される。今回の場合、 一口(16万円出資)に付き7万7340円が補償される。が、現金ではないのがミソ 。次の愛馬を買う対替出資金として使われるシステムである。

 もう一頭のラムタラの子供、持ち込み馬シルクハイネスの方は今週、新潟で走るよう だが……神の馬、ラムタラの子はどうしても走らない。

 夕方からパーティ3連戦。

 まず政治部旧友会。平均年齢70歳?

 僕などはヒヨッコ。政治評論家・細川隆一郎さんらが意気軒昂。90歳もいるようだ。

 昨日「社を辞める」と言った同期生の平井の送別会。「長野に500坪の土地を買っ た。そこで、人生を楽しむ。日本最年長の芥川賞作家になるかも知れない」と彼。平均 年齢55歳?の参加者は納得。正直な男で、喧嘩ばかりしていたが、俺には気の合う奴 だった。

 最後は社会部の異動部会。6人が社会部を去り、7人が新たに加わる。「年かさ」と いうこともあり挨拶する。こちらは平均年齢35歳。俺が平均年齢を押し上げている。

 夜、テレビで近鉄の「九回代打満塁さよなら優勝本塁打」に酔う。二次会に出なかっ たのが正解?

<何だか分からない今日の名文句>

会うは別れ



9月25日(火) 「貧困」を分かち合う

 朝、浅草橋の銀行の口座から生活費を下ろす。55歳の役職定年になってから、給料 はグンと減った。預金残高を見たくない。

 でも、十分に食べていける。精神的にも、まあまあ何も不自由はない。

 仕事がなくなるのも、そう遠くはないだろうが、心の底で「いざとなれば生活保護を 受ければいい」と思っているから気楽だ。

 所得税はともかくとして、酒税は人一倍払ってきた。競馬、競輪で国庫納付金をふん だんに払った。払い続けている。立派に国に貢献している。食えなくなったら、国が保 護するは当然である。

 と、一人納得して、ドトールで朝のコーヒー。優雅なものだ。

 報復間近と思いながら「対岸の火」と思っている。何とかしなければ……と思いなが ら、何もしていない己。妙に恥ずかしい気分だが、まずまず優雅だ。

 テロを憎んでいる。首謀者は自らの野心を遂げるために人々を洗脳する。「王」にな りたいために仲間の生命を平気で奪う。もちろん、敵の生命を奪う。憎んでも憎んでも 飽き足らない。

 しかし、その「洗脳」に同調しないと生きていられない人々がいる。洗脳の背景があ る。

 「貧困」である。夢を奪う「貧困」である。身体を蝕む「貧困」である。

 世界に「貧困」と言える人は何人いるのか。分からない。「貧困」は物質的にも、精 神的にも、知的にも存在するから、「貧困」の程度はわかり得ない。

 が、例えば金銭に換算すると、1日に1ドルしか使えない人は「貧困」だと思う。2 ドルしか使えない人も「貧困」に近いと思う。1ドルで満足な食事は難しい。しかも、 恒常的な食料不足である。

 2ドルしか使えない人はいま地球に住む人の半数である。(世界銀行の数字)

 賞味期限が過ぎた食料が捨てられる日本と比べて見れば、よく分かる。

 あまりに貧富の差が激しい。そして「地球の貧困層」中東では、貧困ゆえに夢を持て ない若者が「王を目指す野望家」の先兵になる。

 テロの背景には「貧困」がある。宗教、民族、イデオロギーとテロの理由は幾つもあ るが、僕は、今回の場合は「貧困」が最大の原因だと思う。(オウム真理教はまた違う )

 内戦に次ぐ内戦。東西の冷戦で代理戦争を続けさせられた土地に「豊かさ」なんて何 処を探しても見つからない。

 アメリカに、日本に、先進国に「負を分かち合う覚悟」があれば(一部の)テロをな くすことは出来た。巨万の富を持つ人々に「負を分かち合う心」があれば(一部の)テ ロはなくなったかも知れない。

 温暖化問題を見るとき、世界の覇者(になったと思っている)ブッシュのアメリカは 「負を分かち合う覚悟」がない。石油産業とつるんで「(一部の)豊かさ」を追い求め る。

 これじゃあ、貧富の差は広がるばかりだ。

 今、日本の学校で「同時多発テロ」を教師は子供たちにどう教えているのだろうか。 不安だ。

 もし、何も教えていないとすると、テレビの役割は大きすぎる。まるでゲームセンタ ーの戦争ものを戦況中継するような調子だ。もの凄く不安だ。

 いま、テロ報復ではない。日本は「負を分かち合う貢献」に生きよう。その立場に立 てば、日本は色々なことが出来る。

 アメリカに義理立てすることも、有る程度必要だろう。町内会費のように思えばいい 。でも、日本が取り組む問題は「世界の貧富解消」である。

 頼まれ原稿を片づけて、プレスセンターで知り合いの早稲田の学生に会う。「将来の 不安」を打ち明けられる。「負を分かち合う」生き方を話したかったが、当然ながら就 職を前にした学生には、こんな話、荷が重いだろう。ただただ勇気づけに回る。

 ただ、人生、計算通りに行くと思うと間違えであることだけはキチッと教えたつもり だ。

 編集局は熱気ムンムン。

 「こんな折りに……」と年かさの記者が、デスクに出稿予定を差し出していた。「皇 太子にお世継ぎ誕生」のニュースである。11月下旬、雅子さんは出産する。また、大 騒ぎになるのか。

 どういう紙面になるのか、興味はある。見ると、テロ取材で、人手を回すのにデスク さんが苦労している。

 41年前の今の皇太子誕生では、新聞の扱いは比較的に地味だったようだが、誕生商 法?を狙う人々は、大々的な底抜けに明るいニュースになって欲しいのだろう。

 6時過ぎに退社しようとエレベーターに乗ると「俺、明日、退社する」と同期生が話 しかけて来た。知らなかった。「何するんだ?」と聞けば「2年間ぐらい遊ぶよ」。

 イタリア特派員が長かった彼、外国にでも行くのか。

 一日、歩く時間がなかったので、竹橋から水道橋の先まで約2キロ半歩く。少し汗が出た。

<何だか分からない今日の名文句>

人は互い



9月24日(月) 佐藤栄作と「国民感情」

 「楠田実日記ーー佐藤栄作総理主席秘書官の2000日」(中央公論新社)が25日 、発刊される。

 「核抜き・本土並み」の沖縄返還を実現した佐藤内閣の2000日を、記者出身の秘 書官が克明に綴っている。今朝(24日)の朝日新聞がかなり詳しく解説している。読 売系出版社の本を朝日が1ページかけて紹介するのは珍しいことだ。

 「個人的には中国が核を持つなら、日本も持つべきだ」と言っていた佐藤首相が「核 保有」を諦めたのは選挙を前に、自民党の川島正次郎副総裁が「選挙ですね」と言った 一言だった、と楠田さんは書いている。

 永久政権の自民党も国民感情を無視することは出来なかった。選挙が国の最高機関ー ーと言うことなのだ。

 アメリカの報復攻撃が迫る中で、36年前の日米交渉の裏側を検証するのは絶好のタ イミング、と言おうか、因縁と言おうか。「国民感情」の変遷が、よく分かる。

 何しろ、今の国民感情は「報復やむなし」である。日経が世論調査したという話。伝 え聞いたところでは70%前後の人が「報復派」らしい。

 この雰囲気は「行く行く核保有」なんて世論にもなりかねない気配である。

 1954年の自衛隊法、1992年国連平和維持協力法(PKO)、1999年周辺 事態法と進んで、今度は米軍等支援法である。

 「国民感情」も大切だが、冷静に判断するのも必要だと思う。「感情」抜きの判断が必 要なこともある。

 「日の丸が見える支援」という表現は、あまりに感情的ではないか。「日の丸の護衛 」で何が出来るというのか。

 日本が今、やるべきことは「日本列島では絶対にテロを起こさせない最大限の努力」 である。

 テロはハイジャックに始まって、化学生物兵器、原発テロ、サイバーテロと様々な形 を変えてやってくる。それを撲滅する。これが、日本がやるべき最大限の努力である。 もし、日本が大規模なテロに出会ったら、世界の経済を破綻する。

 日本の指導者は戦場はインド洋、そこに日の丸を!と思っているが、21世紀のグロ ーバルな戦争は局地戦ではない。いつ、日本が戦場になるかも知れない。それが、テロ と戦う宿命である。それが、新しい戦いだ。ネットワークの戦いだ。

 法の整備を行い、金を増やし、人間の数を増やし、日本列島でテロを起こさない努力 をする。これが、すべての出発点である。それは、万全なのか。

 オウムが東京・亀戸の建物に備蓄していた科学物質を日本政府は完璧に分析したのか 。生物兵器、化学兵器に対する防御はどこまで進んだのか。

 アメリカの軍艦について行くより、まず、列島でテロを封じ込めることである。これ はすべての国家に言えることだが、それが結果的に世界に貢献する。

 首相は自衛隊の服を着て、国民感情に訴えるそうだが、もっと地道な貢献をするべき だ。

 日本が恐る恐るだが、参戦する戦いは「テロを撲滅する戦い」だ。何度も言う。アメ リカの報復に荷担するのではなく、地球人をテロから守るのだ。

 今、アラブでは、テロが反米民族感情を逆手に取って、テロを正当化している。

 「感情」だけが正義ーーと言うのは「狂気の正義」になりかねない。

<何だか分からない今日の名文句>

オウムは反面教師



9月23日(日) 早まるな!ニッポン

 寒くなった。目を覚ましてから、次なる動作に移るのに時間がかかる。TBSラジオ へ行くのが少し遅れた。もう半袖と言う訳にはいかない。身体が不自由だと半袖が便利 なのに。

 ラジオでは「同時多発テロとマスコミ」について話した。

 事件が起こった直後「これは犯罪ではない。戦争だ」と言い出したのはワシントンポ ストの社説。それを読んでからだろう。12日午前10時、ブッシュは「WAR」とい う言葉を使った。「報復の意志」はアメリカのマスコミ主導?だった。

 アメリカのマスメディアは報復派と反戦派に分かれている。圧倒的な世論を背景に、 アメリカでは報復派が多数だが、その世論でさえ、核使用には首を傾け「長期戦を覚悟 」が50%を越えている。

 日本のマスコミはどう考えているのか。この数日「真紀子さんが極秘事項をペラペラ しゃべっている」と報じる新聞がある。何が「極秘事項」なのか。国務省の職員が退避 した場所という秘密を記者団に明かした、という解説だが、そんなこと、アメリカ人は 誰でも知ってる。極秘ではない。

 この期に至っても、外務省VS真紀子の構図が存在する。相変わらず「真紀子悪者キ ャンペーン」をしている新聞は情けない。はっきり言って、こんなこと、どうでも良い ことだ。

 それより、日本の「形が見える貢献」は何か、それを探すのが日本のメディアの仕事 ではないか。

 アメリカの世論と日本の世論は違って当然。温度差があって当然である。同時多発テ ロはあってはならないことである。しかし、外交にはバランスと距離感が要求される。 アメリカが、これを気に「アメリカ一極」を目指している。だから、日本のマスメディ アは慎重でなければならないーーという趣旨の話をした。

 時間の関係で、そこまでは話さなかったが、日本の指導者は落ち着きを取り戻して欲 しい。まかり間違っても、イスラムの世界を敵に回して、恨みを買ってはいけない。

 アラブの国と日本は親しい。皇太子にオーマンからアラブの駿馬が送られたこともあ る。文化的にも、理解できるところがあるよに聞く。

 早くも世界各地でイスラムの人に対して「焼き討ち」が始まった。宣戦布告なき民の 仕返し。最悪な事態だ。

 イスラムの人々は、大多数が被害者である。テロの首謀者は自らの狂気を正当化する ためにイスラム世界を利用しているだけだ。何十億ドルの資金があるなら、ビンラディ ンは飢えに苦しむイスラムの仲間を食料援助で助けるのが先決である。

 テロの首謀者は右手に大儀名分、左手に銃、民を欺き、自ら「王」になろうとしてい るだけなのだ。

 アフガンの人々の多くの人は被害者である。情報を持たない被害者である。

 地球に日本のような「戦いを放棄する国」が存在していいじゃないか。アメリカに圧 倒的な理があるとしても、同盟国であっても、あやふやな決断で「戦争放棄」は捨て去 ったら「戦わない幸福の国」の貴重な経験(実験)が無になってしまう。

 それは、世界の期待に背くことだ。知恵を出そう。人的支援でも、経済支援でもいい 。難民のためのニホン・キャンプでも良いじゃないか。ニューヨークの惨事で身内をな くした子供の里親になることも可能だ。知恵を出そう。

 限りない再軍備の拡大解釈には、反対である。

 ラジオが終わってからは、ゆっくりとした一日を過ごさせてもらった。現場の若い記 者が、夜も寝ずに頑張っているのに、申し訳ないが……許されたし。

<何だか分からない今日の名文句>

考える葦



9月20日(木) ビンラディンはもういない?

 旅先なので自分のホームページを読むことが出来ない。掲示板にどんな意見が来てい るのか、気になるのだが……。

 東京に電話したら、コンピューターウイルス「ニムダ」の被害なのか、毎日新聞のホ ームページが一時、ストップしたとのこと。恐ろしい。

 便利になればなるほど、一瞬のうちに「システム」が破壊される不安が残る。

 午前10時、午後6時半の2回、静岡社会人大学で講演。

 その合間に浜松市砂山町の大黒屋支店でウナギをご馳走になる。「ここが一番、うま い」と言われたが、確かに、口の中にはいるととろける。1500円は安いじゃないか 。店構えは古色蒼然。

 前夜、4時間ぐらいしか眠れなかったので、ウナギを食べてから一時間半、昼寝。起 きて、浜松の繁華街、田町辺りを歩く。はじめて歩いたが、活気がある。

 変わった帽子を見つける。ワーキングキャップ。鉄道員の帽子みたいな感じで、洒落 ている。ちょっと被ってみたら「似合いますね」と店員の若者。で、ついつい買ってし まった。3200円。被らないかも知れないが、何故か、そんな「お洒落心」というか 「余裕」というか、そんな買い物がしたくなった。

 非常時モード、俺には合わない。

 夜の部の講演では、覇権国・アメリカのための戦いに遮二無二参戦していいものなの か?

 疑問を提示する話になった。

 この戦いは、あくまでも人類として「テロ撲滅の戦い」であり「アメリカを取るか、 アラブを取るか?」の選択ではない。

 次々に女性、子供を弾圧し、人々を惨殺している「タリバン・ビンラディン連合」を 許すことは出来ない。が、自由主義勢力とイスラムの「国と国」の戦いにしてはならな い。元は、と言えば、アメリカの中東支配に原因がある。

 そこのところを良く理解しないと、日本は泥沼にはまる。

 ブッシュさんの発言が、嫌にエスカレートしているのが気になる。そのブッシュさん に「早く会いたい」という顔つきの小泉さん。大丈夫かしら。

 深夜、タリバン政権の「聖職者会議」が「ビンラディンにアフガンからの自主退去を勧 告する」と決めた。

 「まだ、ビンラディンがアフガンにいたのか?」というのが、正直な感想である。

 ビンラディンはタリバンの「大事な客人」。というより、共犯者。逃してから「自主 退去」させるのが、日本のヤクザ社会では伝統的なやり方である。

 僕は彼はアフガンにいない、と疑っている。未確認情報では数日まえに出た、という ものもあれば、出たと言って最後まで隠し通す、という話もある。

 アメリカが突然、○○○のテロ関与説を流しているのも、ビンラディンの逃走先と関 係があるのかも知れない。

<何だか分からない今日の名文句>

頭隠して、尻隠さず



9月19日(木) 鳩も戦う。でも臆病に戦う。

 「ここだけの話」で「ばかばかしいお笑いで……」と題して“非常時の落語”のこと を書いたのだが、メールで読者からお叱り。不真面目に写ったのか。

 僕は真面目に考え、真面目に考え「お笑い」でことの本質を書いたつもりだが……舌 たらずだったか。でも、余裕を持ちたいから、この調子は変えないつもり。

 「仕事でアメリカへ行くつもりだったが、中止になったんで暇が出来た」と友人が同 僚と共に来訪。近くの「江戸平」で昼飯。

 彼らの話によると、日本の主要企業は海外旅行禁止令が門並み出ているそうだ。ワシ ントンホテル系列など旅行関係企業はキャンセルで真っ青らしい。

 アメリカでは空港会社が次々に倒産の危機。当然、同盟国・ニホンの連鎖倒産は避け られない。

 もし、更なるテロが模索されているとすれば、自爆同時テロの次は「WEBテロ」だ ろう。インターネットが動かなくなれば、一時的であれ金融市場は動かなくなるし、運 輸、通信が麻痺する。恐ろしい。

 共産主義を駆逐した資本主義が「崩壊の一歩」を進んでいるような予感さえする。

 午後3時過ぎ、東京駅から新幹線で静岡へ。気のせいか新幹線、閑散。静岡から車で 島田へ。例の静岡社会人大学で講義。

 テーマはやはり「ビンラディン」。「タリバンの最高指導者・オマル師の第二夫人は ビンラディンの妹ではないか」と言った話をする。

 JR島田駅近くの「柿の木」(島田市大川町4911の1 TEL0547−35ー 6089)で夜食。こじんまりとした日本料理の店だが、味がしっかりしている。この 店だけの大吟醸「柿の木」。評判らしい。

 酒を飲みながらの社会人大学のスタッフの一人の意見。「正直言って、ブッシュ、ざ まあ見ろ!と言う感じがしますよ。ユダヤの資金でユダヤの言いなりのアメリカには同 情できない」

 こういう意見もあるのだろう。

 ブッシュは石油資本のために温暖化防止の京都議定書に駄々をこねた。ブッシュのや りたい放題が、再三言うが気にかかる。

 東海道本線のホームライダーで島田から浜松へ。11時過ぎに駅前のホテルにチェッ クイン。テレビで、小泉さんの記者会見をやっている。

 自衛隊の派遣容認の姿勢。鳩だって襲われれば戦う。 自由主義が襲われれば、鳩も戦うざるを得ない。でも、問題はやり方だ。鷲のような米 国と同じようには戦えない。

 フランスにしても、イギリスにしても、それぞれの思惑で動いている。中東との歴史 的距離感の違いがある。欧州は「アメリカとともにテロ一掃で戦う」と言ってはいるが 、キリスト教とイスラム教という図式は嫌って、軍事報復には前向きにならないはずで ある。

 蚊帳の外の印象を与えて、日本をじりじりさせるアメリカのやり方。おっちょ こちょいで、軍事報復を積極的に支持したら、日本はドジを踏む。

 鳩は戦う。が臆病であっていい。

<何だか分からない今日の名文句>

平和の鳩は智恵の鳩



9月18日(水)「酒鬼薔薇」はA君ではなかった!

 たいとう診療所でエネルギー検査をした。

 リハビリ訓練の前と後とのエネルギー必要量の変化を呼吸の量で調べる。便利な装置 だ。

 仕事場から45分歩いた直後の「訓練前」が1560カロリー。「訓練後」が332 0カロリー。一生懸命、訓練をしている証拠なのかしら?

 このデーターを勘案すると、僕は訓練を受けた日、1800カロリー強の補充が必要 である、という結論になる。便利な機器が出来たものだ。

 午後「おけら街道」の一部書き直し。T調教師の「不可解さ」を書いたが、表現が少 し強くなったので、書き直した。

 実は、このT氏のような常識すこぶる芳しくない人物を放置するのは、如何なモノか 、と思っている。騎手として、その力量は評価するが、人間性に首をひねっている人は 何人もいる。

 が、Tファン、特に若い女性ファンの気持ちを考えると、もう少し表現を柔らかにす る方がいい、と考え直した。

 それでも、JRAの友達は「いらぬことを書いて!」と立腹するかも知れない。また 、友人をなくすかも知れない。これ、記者の宿命。競馬を愛する者の「やむにやまれぬ 苦言」と考えてくれないか。

 まあ、しばらく「周囲の批判」に耐えるか。

 午後6時、銀座・日航ホテルで待ち合わせ。うまいものを食べようと「三献」。「し まあじ」が美味。

 歩いて数分のスナックに寄ると、ママがコピーを見せ「読んでみたら」。

 店に現れる後藤昌次郎弁護士が「諸君10月号」に書いた「少年Aは推定無罪!」の コピーである。一気に読み終える。

 1997年神戸・須磨区で起こった「酒鬼薔薇」事件。小学生六年生の児童を絞殺し 、切断し、頭部を中学校の正門前に置いた事件である。

 当時14歳の少年Aが容疑者と逮捕され、現在、少年Aは関東医療少年院に収容され ている。

 自白もあり、少年Aの父親の手記もあり、誰もがA少年こそ真犯人と信じているが 、それは間違っている、と言うのが、後藤弁護士の主張である。

 後藤弁護士は松川事件、八海事件、青梅事件、菅生事件、日石・土田邸爆破事件で冤 罪を勝ち取った敏腕弁護士。彼は無理矢理作った「自白調書」だという。

 後藤弁護士が「酒鬼薔薇」は少年Aではない、と主張する理由は

 (1)犯人の声明文と少年Aの筆跡が同一人物のものと判断できなかった。

 (2)それにも関わらず、警察は「筆跡が同一だった」と嘘を言い、少年は自暴自棄 になって自白した。逮捕されて一ヶ月後に、この嘘のからくりを知り、少年Aは涙を流 した。

 (3)自白以外に証拠はない。例えば、遺体を洗ったとされる風呂場にルミネート反 応はない。

 (4)検事調書で、凶器の「糸ノコギリ」がいつの間にか「金ノコギリ」に変わって いる。

 (5)警察犬まで出て、捜索が行われた時間帯に、少年Aは自宅を出て、タンク山の 中に入り込み、頭部を切断し、それを鑑賞し、さらにナイフで両目や口を切り裂き、ビ ニール袋に溜まった血を口一杯飲むことを誰にも気づかれず実行できたか。極めて不自 然だ。

 等々の理由をあげて、後藤弁護士は「無罪」だと主張する。彼が担当している 事件ではない。少年Aはすでに医療少年院に収容されている。しかし、真実を放置でき ない、と言うのが、後藤さんの考え方だ。

 大事件が起きると他の事件が霧散する。

 米国連続テロで「事件は一つ」になってしまっている。もし、戦争前夜の騒ぎがなか ったら、この「少年Aは推定無罪!」は大きな話題になったと思うのだが。どうだろう か。

<何だか分からない今日の名文句>

自白は「証拠の女王」



9月17日(月) 映像に負ける「活字」

 嫌な夢を見た。

 突如、秋田支局に転勤を命じられ、赴任すると、テレビで東京の空襲を見る。母に連 絡をしたいのに電話が通じない。(母はこの世にいないのだが)

 気がつくと、支局の上空をアメリカのF7戦闘機。えらいことなった。なのに若い支 局員は平然と酒盛りを始める。

 何だ、これは……と首を傾げたところで目が覚めた。

 多分、僕のように戦争の夢を見た人も多いだろう。立川周辺ではアメリカ軍の夜間訓 練。夢どころではない人々もいる。

 朝、BS放送で「ABC同時テロの週末特集」を見る。これまで見ていないシーンが 幾つか登場した。レポーターが初老の女性をインタビューしているうちに、涙があふれ、 抱き合ってしまう。見ていて涙ぐんでしまう。

 こんな地獄絵、見たこともない。文明を過信した人間どもを、悪魔が冷酷にあざ笑っ ている。

 その悪魔の選択の本質は、どうしても活字では表せない。報道という分野で、活字は テレビの映像に適わないように思えてならないのだ。

 活字は映像を拒否するものと戦うことで、存在意味を果たすしかない。それは出来る かもしれないが、圧倒的な映像の前で、無力感に苛まれる。

 ひょっとすると「フィクション」の構想力で勝負するのが、活字で生きる人間の険し い道なのかも知れない。

 夕刊紙は同時テロで売り上げを伸ばして来たが、ここへ来て、無責任な?推測記事が 多すぎて、少し売り上げが横這い?

 テレビ完勝の報道合戦、のような毎日だ。

 夕方、久ぶりに競馬記者仲間数人と一杯。競馬の世界に関しては新参者だから聞き手 に回る。

 質の悪い競馬人の話、質の悪い記者さんの話。正直なところ、競馬記者は政治記者に 比べると「さわやかな人」が多いように思っていたが、中にはやはり首を傾げたくなる 人もいるという。ガッカリ。

 帰宅すると、アメリカの株、とりあえず暴落。パキスタンとタリバンの折衝、中身が 見えてこない。

 そう考えると、やはり報道は映像、活字関係なく「取材力」ということになるのか、 と気を取り直す。

 深夜「おけら街道」を書く。理解できない競馬人Tさんのことを書く。どこまで書く か、それが問題だ。

 ウトウトしていると地震。物騒だからサッサと寝るか。変な夢を見ないように、おま じないをする。

<何だか分からない今日の名文句>

何処にもいるから「ならず者」
何処にもいるのが「悪夢」



9月16日(日)「報復」という言葉で良いのか

 有希のサンフランシスコ・レポートを読む。

 「911はアメリカのEMARGENCY(緊急電話)。テロ集団が9月11日を選 んだのは意味があるのでは……」と彼女は分析する。ひょっとすると、そうかも知れな い。

 今後も、有希のレポート、ユニークなものになりそうだ。

 かなり早く起きてTBSラジオ「中村尚登ニュースプラザ」。中東問題の権威の観堂 記者(毎日新聞大阪本社代表室長)が特別出演する。彼の分析では「報復攻撃はかなり 遅れるのではないか」。彼は「2弾、3弾のテロが用意されているのではないか、とア メリカは心配している」という分析。

 「牧太郎ザ・コラム」のコーナーでは、国旗の話をする。

 アメリカは今、星条旗の下で心を一つにしている。「独立」をメインテーマにしてい る星条旗。でも、州の数を星にするのは、幾分、覇権主義的でもある。

 ロシアはソ連の時の「共産主義の赤い旗」はなくなって帝政ロシアの国旗に戻ってい る。妙な感じだが、国旗には、それなりの国民の意志がある。

 アフガニスタンの国旗はアラビア語で「アラーほかに神なし」と書いてある。イスラ ムは宗教、政治、生活すべてがアラーなのだ。

 国旗に現れる国家観から同時テロを分析した話をしてみた。

 午後、図書館。知らなくても恥にならないことが幾つもあった。ところが、知って置 かないと恥をかくことが、突然、増えたので「付け焼き刃のお勉強」。

 夕方「ここだけの話」はどんな内容にしようか、と悩む。でも、僕なりの「くだらな い話」にする。今だからこそ、風刺的に「毒にも薬にもならない話」を書いてみた。

 外務省が海外危険情報を出した。アフガニスタン周辺の地域から日本人が引き上げ始 めた。

 テレビで「報復」という言葉が、当然のように使われている。確かに「報復」には違 いないが、この言葉を使って良いのか。この言葉では「アメリカ対テロ勢力支援国家」 の図式になる。これでは、参加出来ない国も多いはずだ。

 ブッシュは「報復」と言わずに「テロ撲滅行動」と言うべきではなかったのか。「報 復」で「新しい戦争」に突入すると「目には目を」の連鎖になる。

 冷静に対処しないと、日本の国論も滅裂するかも知れない。

 深夜、友人から「おめでとう」の電話。15日の札幌競馬10レース「ニセコ特別」 でデリキットが勝った。これまでと同じ「500万下」の同じ条件だから、勝って当然 だが、それにしても2連勝。運が回ってきた。

 友人のいささか酔った言葉に、ただただ感謝して「報復」のことには触れなかった。

<何だか分からない今日の名文句>

柔能く剛を制す



9月13日(木) 民衆蜂起運動の言い分

 診療所に行く前に、前夜届いた世界週報9月25日号「激動の中東ーー現地レポート 」を読む。

 もちろん、米国同時テロが起こる前に書かれた原稿。静岡産業大学教授・森戸幸次氏 がイスラム原理主義組織ハマスの政治局員、アブデル・アシズ・ランティシ氏をインタ ビューしている。

 イスラエルが要求している逮捕者リストに載っている人物。三ヶ月ほど前に、自治政 府の刑務所から出てきたきたばかりのパレスチナ民衆蜂起運動(インティファーダ)の リーダーで「新しいインテイファーダはパレスチナの31組織が参加した大同団結の組 織だ」と話している。

 そのインタビューの中で、森戸氏が「ハマスの戦い方は、日本では『カミカゼ』型の 軍事作戦として知られている。パレスチナの一部の若者はなぜ、自爆テロに走るのか? 」と聞いたのに対し、ランティシ氏はこう答えている。

 「人類にとって占領は奴隷の最悪な形態だ。私たちパレスチナ人は、こうしたイスラ エルの長期占領下で奴隷のように、非人間的で屈辱的な抑圧状態に置かれ、行動の自由 も奪われて閉塞状況の中でもがき苦しんでいる。

 こうした状況の中で生まれ育ったパレスチナの若者たちは、人間として、民族として の権利を回復するため、自らの尊い生命・身体に爆弾を包み込んだ『人間爆弾』となり 、イスラエルを標的に殉教する覚悟をしている。 (中略)若者を自爆作戦に駆り立たせるものは、イスラムの宗教的信念というよりも、 民族の権利を守り抜くというナショナリスティックな動機が大きい」

 イスラエルにはアメリカが与えた武器があるが、こちらには自らを守る武器すらない、強調した。

 米国同時テロが起こってから「宗教は恐ろしい」と感想を述べる人が日本人にかなり 多い。僕もその点は否定しないが、彼は「自爆テロの動議は民族」だと話している。

 この点は、この新しい形の戦争が始まる今、テイクノートしておかなければならない 。

 今回の同時テロの指揮を取っている(と思われる)ラディンとハマスが、どんな距 離にあるか、分からない。

 しかし、強国の中枢に自爆する背景に、パレスチナの閉塞状態が限界に達していることは事実だろう。

 テロを指揮する者は、その閉塞状態を利用して、自らの権力誇示を達成しようとする 。宗教の力、民族の力を巧みに利用して、若者を洗脳し、自ら「闇の王」になろうとす る。それが自爆テロの正体である。

 だから許せない。

 と、同時に、この閉塞状態を放置したどころか、決定的に介在した大国・アメリカの 「罪」も厳然と存在するようにも思う。

 この数日、世界中が夢うつつだ。情報がアメリカ発信のものばかりになって、日本の マスコミも何をどう報じたらいいのか、迷走している。

 もう少し、冷静にならないと、まるで半七捕物帖みたいな報道だ。このままで突っ走れ ば「アメリカ軍従軍記者」になってしまいそうだ。

 診療所のリハビリ訓練の合間の雑談では「宗教は怖い」「戦争になるの?」と言った モノばかり。「株はどうなるの?」というのもある。まだまだ、対岸の火事。そうであ って欲しいのだが。

 夕方、前々の約束で社の地下で会食。夜の街、心なしか閑散。二次会で久しぶりに浅 草観音裏の店に行けば、ママさんが「××が死んだのよ」。

 驚いた。一番、明るいホステスさんだったが、まさか、こんなに早く亡くなるなんて 。

 人知れぬ悩みがあったのだろう。

 日付けが変わる頃、帰宅。また、テレビの前に陣取る。

 大統領と副大統領が別のところで執務することになったのは、開戦前夜?

 まだまだ、首謀者の身柄引き渡しの可能性も少しだがある、と信じたい。

 
<何だか分からない今日の名文句>

テロにも三分の理



9月12日(水) テロと闘う10年戦争?

 東西冷戦が終わった時点で、自由世界が戦うべき相手はテロに限定されつつあった。 (もちろん「疫病」その他新しい「人類の敵」も存在するが、それはひとまず置いてお く)

 テロを取り囲む「環境」は、この数年、大きく変わった。

 一つは冷戦後、アメリカがあまりに大きくなった。ソ連という挑戦国をなぎ倒し、地 球制覇を実現しつつある。経済的にも、挑戦国でありながら同盟国である「小さな経済 大国・ニホン」が青息吐息なのに、アメリカは我が世の春を謳歌した。

 一人勝ちは許さない、という気分が世界の隅々にちょっとだけあった。いや、満ち満 ち、として存在した。

 そして、もう一つの環境の変化。アメリカが持つ軍事的科学的能力の「分け前」とし て、テロ側が戦えるだけの科学技術を手にしたことだ。

 ゲリラの戦法も強くなった。我々が楽しんでいるインターネットは元々、米国の軍事 用技術だったことを考えればいい。テロは科学的に戦えるところまで来た。

 そして、資金力である。ウサマ・ビン・ラディン氏の資金力はこれまでのテロのスポ ンサーとしては、桁外れなものである。(新聞は、まだ犯人は特定できない、としてい るが、ごくごく普通に考えれば、彼の配下の仕業である。アメリカは報復の準備の時間 を稼ぐために公式なコメットを避けながら、世論操作に入っている。事実、常々、ウサ マ氏はテロ決行を明言している)

 そして、その「技術+資金力」で一定のネットワークが作られている。工作員は10 00人ぐらいいるらしい。(日本赤軍が「メンバー8人」と言われるのとは大分違う)  そのネットワークのキーワードは「反米」である。(オウムや日本赤軍のような天皇 制打破とは大分、違う)

 世界革命ではない。反米である。「反米」とは、アメリカ人を殺せ!であり、アメリ カを滅ぼす戦いは聖戦なのだろう。だから自爆テロなのだ。

 要するに、アメリカが大きくなったばかりに、反米テロも大きくなった。それが宗教 と結びついた。

 冷戦の後は「対テロ戦争」、と多くの人が気づいてはいたが、それほど早く、それほ ど大がかりにテロ戦争が始まるとは、思わなかっただろう。

 この戦争は10年、20年続くだろう。要するに、アメリカの中枢部も「張り子の虎 」のようなもので、テロ側が壊滅することも可能だ、と全世界に放送したようなものだか ら、テロ側は勢いつく。

 許せないテロ。けっして許せないが、そう簡単に押しつぶすことは出来まい。

 本質的には「アメリカ対テロ」の図式である。が、その図式では、泥沼にはまり込む 。

 「全世界対テロ」の合意を作ることが、すべての優先である。

 全世界的合意を考えれば、ブッシュは幾つかの点で、無茶をやめなければならない。 日本だって、なんでもアメリカの言いなりにはなれない。

 東京・竹橋にある毎日新聞社は皇居のお堀に面している。昼頃、その間の道に馬鹿で かいキャンピングカーが止まったまま動かない。

 キャンピングカーから砲弾が皇居に打ち込まれるのではないか。いや、毎日新聞が攻 撃の対象かもしれない。誰かが、通報したのだろう。警察が飛んできた。

 調べたらガス欠。大笑いになったが、東京もこの辺り緊張している。アメリカ大使館 がある共同通信社あたりは厳戒だろう。イギリスの首相官邸でも、爆弾騒ぎがあったら しい。

 ブッシュは主要国のトップに電話をしているが、まだ、日本には挨拶がない。何故か ?

 正直なところ、テレビカメラの前に立った小泉さんは、用意された文章を読み上げ ただけ。何故、自分の言葉で言わないのか。誰かが「口は災いのもと。殿、ご注意を! 」と言ったのかしら。この事件が起きてから、小泉さんの影が薄い。

 午後4時、浅草橋で例のお勉強。お勉強をしているうちに、毎週水曜日の朝と決めて いる「ここだけの話」の更新を忘れたことに気づいた。50年に一度の大事件にうろた えたか、すっかりローテーションを忘れてしまった。(申し訳ない。13日午前11時 ごろ、更新いたします)

 再び、社に戻ると、社会部の若手記者が「遅い夏休みでニューヨークにいた」ことが 判明。ツイている奴だ。

 このくらいのスケールの現場にいるなんて、記者冥利に尽きる。

 夜、テロ関係者の一斉手入れが入ったらしい。

 編集局はムンムン。燃えている。

<何だか分からない今日の名文句>

奢らない警察官さまへ



9月11日(火) 2001年9月の悪魔

 人間が予測しえない事態は「神と悪魔」の手中にある。

 アメリカ同時多発テロ。誰もが、予想出来ない悲劇だった。あるいは「神」すら予想 することが出来なかった。

 8月の終わり、日記で「9月の危機?は刻々と迫っている」と書いた。

 何か分からないが、とてつもない地球的規模の危機がやって来る、と思えてならなか った。

 その予感は株価で現実になった。台風15号の首都圏直撃を経験しながら「明日にも 平均株価1万円の大台を割り込む」と予測していた。多分、これが「地球的危機」の始 まり、と思った。少なくても、スポニチの仲間が開いてくれた「おけら街道連載400 回お祝い会」に出席するまで、株価のことばかり考えていた。

 それが、帰宅してテレビをつけると、画面は世界貿易センターに2度目の「攻撃」を 撮していた。何が起こったのか、分からなかった。映画?と思った。

 悪魔だけが知っていた悲劇だった。

 テロについても「予感」がなかった、という訳ではない。9月4日付きの朝日新聞大 阪版のインタビューで、僕はこんな風に話した。

 「正義には2通ある。一つは、多様性を認めるバランスのとれた正義で、報道に欠か せないものだ。その対極に、一つの正義を信じて他を許さない、いわば『狂気の正義』 がある。(中略)テロの危険はある。冷戦後、各地で民族的な動きが強まっている。自 分の民族の正義だけを信じて、他を認めない。(中略)報道する側は脇を固めて『テロ を認める正義』と闘う」と話した。

 8月21日の毎日新聞の「ここだけの話」でも「『神経質に過ぎるゾ』と思いながら “テロの不安”を感じている」と告白した。1930年代の時代背景と極めて似ている のだ。

 それにしても、これほどの悲劇とは、予測出来なかった。

 テロの広い意味の「予告」はあったと思う。が、米国当局も、それほどの規模とは、 考えなかったのだろう。

 2001年9月11日、世界は危機を迎えた。

 世界の警察・アメリカは混乱し、混乱しつつ報復攻撃に走るかも知らない。

 日本はどうすれば良いのか。事実上、参戦する道が用意されているのか。

 この日記を書いている12日未明。まだ小泉さんはテレビの前に立たない。

 直ちに、危機管理内閣を立ち上げなくてはいけないのだろう。現在の内閣の布陣では 心許ない気もする。

 具体的に言えば、中曽根内閣の後藤田官房長官のような危機管理の専門家を集めなけ ればならない。

 経済とテロ。地球的危機は現実になった。

 「アメリカ対テロ」の図式ではなく「テロ対全世界」の図式を作る。アメリカの報復 ではなく、全世界がテロ包囲網を作れるかどうか。正念場である。

 この日、我が「魁掲示板」一周年。かなり、生き生きと自由な表現が繰り広げられた 。ありがとう。

 危機を救う掲示板仲間の冷静で、核心をつく「書き込み」を期待している。

<何だか分からない今日の名文句>

悪魔の正義を許すな!



9月10日(月)「会費3万円」で改革が出来るか!

 朝、台風の余波か、突然、雨が激しくなる。そのくせ、2分もすると、雨が上がる。家 を出ようとすると矢のような降り。妙な空模様だ。

 行くか、止めるか、悩んだ末、専売病院の定期検査。患者さんはいつもより少ない。

 体調順調。体重65キロ。減量の成果も出た。

 帰宅すると、立派な書状が来ている。

 「謹啓 今年は例年になく暑い日が続きましたが、お変わりなくお過ごしのこととお 喜び申し上げます。さて○○俊樹君は昭和35年、29歳で最年少議員として衆議院議 員に初当選以来……」

 「○○俊樹君の議員在職40年を祝う会」のご案内である。

 日時・9月26日、会場・ホテルオークラ「平安の間」。そして会費である。「参萬 円」とある。唖然。

 総理大臣経験者だから「参萬円」なのかもしれないが、お高い。政治家のパーティな んて、ロクに食べるものはないし、満員電車のような詰め込みなのに一枚3万円。3万 円のパー券を売りつけるなんて、冗談は顔だけにしてくれ。

 しかも、親しい企業に10枚、20枚、売りつける。○○さんは、どちらかというと 文教族で「企業に強い議員」でもないが、それにしても売り上げ××××万円の興行に なるのだろう。

 このパーティが「諸悪の根元」である。大量にパーティ券を引き受けた業界の要望に 族議員が応えるのは当然である。

 これも毎年毎年やる議員。業界のご用聞きだ。

 ある料亭の御帳場で、お茶をごちそうになっていた時のことだ。女将さんが用事で調 理場に行った時、電話が鳴った。仕方なく、受話器を取ると「△△の安×だ。綿×、来 てるか?」と相手が言っている。

 安×は有名なゼネコンの経営者。「綿×」は自民党主流派の建設族。安×は自分の部 下に伝えるように「綿×にもう少し待て、と言っておけ」と当方が何も言わないうちに 一方的に電話を切った。

 これが、土建屋と議員の本音の「力関係」なのだろう、と思った。

 十年以上のこと。綿×さんは、その後、トントンと出世した。三権の長にもなった。

 もちろん、綿×が所属する橋×派はパーティ屋みたいな議員集団だ。

 さて、○○俊樹さんのパーティ。○○さんには取材上、厄介になったこともあるので 、出席したいのだが、参万円は僕には無理だ。と言うより、政治家のパーティに出席す ることが、犯罪のように思えるのだ。

 もし参万円あれば、一日中、競馬が楽しめるじゃないか。馬券を買えば国庫納付金を 納めることになる。寺銭で「人助け」にもなる。

 書状を隈無く読むと、最後に小さな小さな文字で「この催しは政治資金規正法第8条 の2に基づく政治資金パーティです」とある。パーティ券の売り上げで税金を払いませ ん、という意志表示?

 首切りで、青息吐息のサラリーマンがゴマンといるのに……。

 パーティ禁止令を出さなければ、改革は出来ない。

 夕方、倅が遊びに来たので、珍しく缶ビールを僕4本。倅6本。勤め先で販売の部署 にいるので、ストレスが溜まっているかと心配しているが、思ったより元気。冗談も出 るので、取りあえずリストラの懸念はないらしい。

 迷走台風は、関東に来るのか、来ないのか。

 深夜「おけら街道」の400回を書く。

<何だか分からない今日の名文句>

パー券を 買うほど俺は 馬鹿じゃない



9月6日(木) また逃げるキャリア

 朝、久しぶりに診療所。伊藤理学療法士から、出来たばかりの著書をプレゼントされ た。

 「訪問リハビリ入門・脱寝たきり宣言!」

 伊藤隆夫・吉良健司著(共に「たいとう診療所」の理学療法士)B5版・2色刷り  160ページ。

 日本看護協会出版会のコミュニティケア双書の二冊目の本である。

 どうしたら、障害者でも、高齢者でも、生き生きと生活が出来るか。これを伝授する 本。部数の関係で、お値段は若干割高の2800円だが、ふんだんにイラストが入り、 例えば半身マヒの患者が、一人でベットから起きあがる「段取り」がイラストでよく 描かれている。

 看護婦さんやヘルパー必読の書。高齢者を抱える家庭でも一冊、用意してもいいだろ う。

 「ゲラを見るだけで、くたびれた」と伊藤さん。朝から夜まで診療を続け、深夜、本 を書く彼らに頭が下がる。(吉良さんは夜、大学院に通っている)

 リハビリ革命の先頭に立つ彼らを応援する意味でも、この本を買って欲しい。

 医療の現場では、医師がキャリア、療法士はノンキャリアーーといったような「身分 差別」があるように思う。(例えば、報酬) しかし、我々身障者の本当の味方になる のは療法士、ケアマネージャー、看護婦である。

 たいとう診療所には、もちろん身分差別はないし、患者本位の現場第一主義。 だから大好きなのだ。

 上野の寄席など、若干の取材。その後、出社する。

 午後5時、やっと「外務省の三悪」の最後の一人、浅川さんが逮捕される。

 次官が用意された「ご挨拶」。「(詐欺の)意図を持った個人的犯罪」と話す。冗談 じゃない。「困った時も浅川詣で」で、裕福な生活をしたのはキャリアじゃないか。

 外交官試験を通れば、一生、何もしないで遊んでいられる、と高をくくって、パーティ 三昧。何も「外交」なんていわれることはせず、浅川以下「ロジの三悪人」に馬鹿にさ れ「盛大な送別会」をして貰って「ありがとう」と言っていただけで海外に赴任するキ ャリア。その赴任先では、お殿様のように日本人社会を牛耳り、贅沢三昧。

 悪いのは「常識」を持ち合わせないキャリア。君たちだ。

 学力試験で「人生、勝ち組」と勘違いする上級官僚。幾つかの経験から、僕は、彼ら が日本を悪くしている、と断言出来る。

 優秀な、常識を持つ、親しい官僚の友人を敵に回してしまうのが、寂しいが、精神的 に「誇りは高いが、欲得に薄汚いキャリア」を許すわけには行かないのだ。

 ホテル?ニューオータニが悪い、とお門違いな「民間いじめ」をしようとする輩もい る。彼らの商法の犠牲になった、という馬鹿げた言い訳。消して誉められたことではな いが、ホテル戦争に中で、お客さんの言うがままにしたのは、商売人としては、やむを 得ない「商売」だ。民間を悪者にするな。

 自分の手は汚さずに「浅川のところに行けば、裏金がある」と言っていたキャリアた ち。

 「他人事」のように振る舞うが、彼らが我慢出来ない人々の「内部告発」は必ず続く 。

<何だか分からない今日の名文句>

身分差別は「上納」から



9月5日(水) キャバクラ客のプライバシー

 石寒太からFAXが来ていた。急死した作家・畑山博に関する情報。

 「香夫人と電話で話しました。8月29日、急に腹が痛くなり、入院した時はもう肝 臓の全部に(水が)回ってしまっていたそうです」

 通夜、告別式はいっさいするな、と遺言。

 彼の最後の仕事は小説ではなく、地球と星との関係を綴ったエッセイ。NHKの生活 人新書という新しい企画の第1回配本(11月刊行)の10冊の中の一冊になるらしい 。

 朝飯を食べてから、浅草まで散歩しながら、若干の取材。ヌード劇場だったフランス 座が東洋館と名前を変え、漫才の定席などになっているが、かなり苦戦している様子。 その周辺を取材。

 「競馬はロマン」を書き上げ、雑誌類の拾い読みをする。「Thoroughbred」の 読者の広場欄に「魁」の読者の一人、八戸のSさんの一文を発見。愛馬二頭が同 じレースに出走した興奮を書いている。

 羨ましい。偶然、彼と僕はリングレットの馬主仲間。今週、中山の1800メートル 戦で2勝目に挑む。

 掲示版を眺めると「たまちゃん、コネ入社?」という書き込み発見。どうでも良いこ とだが、誤解を生むので、簡単な書き込みをする。

 もっとも「上級官僚は学力試験ばかりで採用するので、優秀な人もいるが大部分カス ばかり」なんて意味のことを書いてしまった。とんだ“勇み足”。掲示板の仲間から、 お小言をいただく。

 役人嫌いの血筋が、こんな“本音”を書かせてしまうのだ。謹んで、お詫びする。で も、学力試験のみで人を判断すると「集団としての頭脳」が固くなる、と思っている。

 午後4時、浅草橋の××教室でお勉強?(内緒です)

 その後、社会部に顔を出す。 新宿のビル火災で社会部は大忙し。前夜(4日)TBSラジオの仲間と飯田橋「めん房 」(釧路のサンマ600円は秀逸)で雑談した時も話題になったが、キャバクラで惨事 にあった人の氏名を新聞に出す必要があるか、いなか。ここでも、若干の議論になって いる。

 残された家族のことを考えると「キャバクラで死んだ」はつらい。「これはプライバ シーの問題だから書くべきではない」という意見も多い。果たしてどうだろうか。なか なか難しい。一時期、NHKその他のメディアが「飲食店」などとしていたようだが、 犠牲者の名誉のために「飲食店」とあえて間違えるのは、いかがなものか。歴史を出来 るだけ正確にデッサンするジャーナリストの立場からすれば、キャバクラはキャバクラ でなければいけない。

 仲人をしたこともある後輩のFの所在が分からなかったが、深夜「見つかりました。 これから、会いにいきます」という後輩たちの電話。大いに安心する。

<何だか分からない今日の名文句>

歴史にプライバシーなし



9月4日(火) 「母・一枝の闘病記」

 雨の相模斎場の告別式。たまちゃんは約16分、参列者の前で「母の一生」について 話した。

 普通なら、最後のお別れの後、喪主が簡単に参列者に御礼するのが普通だが、彼はた っぷり時間をかけて「母の一生」について話した。特に後半は彼女の闘病。もらい泣き した。

 「平成11年1月15日、父・松沢憲一が88歳で胃ガンのため死去した。11月2 2日、毎朝のお勤めで、父の好きだった柿を仏壇に供えている最中にロ−ソクの火が服に引 火した。パーキンソン病で右半身が不自由な身体の一枝は、髪の毛を焦がす炎と肌を焼 く痛さを堪えながら70メートル先の樫村理髪店に駆け込んだ。樫村さん家族3人は水 をかけ、布で叩いて火だるまの母を助けてくれた。北里大学のICU室に移送されたが 、全身3分の1の火傷。重傷だったが、一命は取り留めた」

 これが、一枝さんの闘病、たまちゃん一家の介護の始まりだった。

 北里大学病院→ケアハウス「青葉の郷」→在宅介護(ケアマネージャー斉藤さんの介 護とデイサービス「ひばり」の通院)→「青葉の郷」ショートステイ(この時、食物が 食道に流れず、肺に入る誤燕性肺炎にかかる)→淵野辺病院→「泰政園」にショートス ティ(「青葉の郷」はいっぱいだった)→4日目、肺炎再発で淵野辺病院に再入院→長 期療養型「相模原南病院」(病院ほどの医療機能はないが、医師はいる)

 お母上は転々とされた。

 パーキンソンと言う難病。在宅介護が難しい現状。疲れ果てる家族。彼はいつも「お 袋は家がいい、というんですが……」と悩んでいた。

 お母上が目の中に入れても痛くない孫の憲子さんが、ことし7月7日、結婚した。「 冥土の土産に、孫の花嫁姿を……」と言っていたが、このころには車椅子で移動するこ とも出来なかった。

 そして9月1日の急変である。

 「平成13年9月1日9時15分。寒がりなお袋好みの暖かい夏の遅い朝。おやじさ んの待っている天国へひとり旅立った。いまごろは、パーキンソンから解放された手足 を思いっきり伸ばし、大好きなスイカを二人で食べながら夫婦水入らずで、楽しんでい るだろう。

 今、改めて、一憲と継憲(たまちゃんの弟)は日本一、世界一のお袋さんに産んで貰 ったもらったことを感謝し、そして誇りに思っています。ゆっくりと身体を休めてくだ さい」とたまちゃんは、結んだ。

<何だか分からない今日の名文句>

「たま」には「たま」の憂いあり



9月3日(月) りんどう少年、逝く

 朝、関係各方面に「たまちゃんのお袋、死す」の連絡をしていると、相手側から「大 変ですね。不幸が重なって」と言われ、初めは何のことか分からなかった。

 新聞を見て「りんどう少年」がなくなったことを知る。

 畑山博。我が日大一高の大先輩である。一高を卒業してから新聞販売員、旋盤工と様 々な職業を転々としたが、放送作家になってから運が向いて、NHKの教育テレビの「 若い広場」を7年間も担当した。

 我が母校唯一の芥川賞作家で、サンデー毎日の創刊70周年を記念して、小説仕立て でサン毎の70年を記録してもらった。

 酒が好きで、酔っぱらうと「りんどう咲いて、恋をしる」と、まるでお経のように朗 読し、歌う。

 この文句、僕も好きで、肩を組んで「りんどう咲いて恋を知る」と歌った。二人は 「りんどう少年」だった。

 石寒太から「具合が悪い」と聞いていたが、まさか、命に関わるとは思わなかった。 もういちど「りんどう」を二人で歌いたかった。

 日大一高では世代が違うから、学校で会ったことはない。同世代に大橋巨泉先輩がい る。多分、同学年ではないのか。

 どちらかというと、派手好きの巨泉さんと比べると、静かな目立たない「生き方」が 好きで、葉山の山の上で、ひっそり暮らしていた。

 「通夜も告別式もいらない」というのが、先輩の強い意志。寒太が奥さんに電話した が、どうやら近親者だけで葬儀をするらしい。いかにも、りんどう少年らしい。

 合掌。

 夕方、相模原で「たまちゃんのお母上」の通夜。たまちゃん、お母上の横向きの良い 写真を選んだ。60頃の写真? お母上、若いとき、美人だったのだろう。

 雨、しきりに降る。明日の告別式出席のため、相模原のビジネスホテルに泊まる。

 近くのイトーヨーカドーで弁当を買って、ホテルでビール。「りんどう咲いて……」 を小さな声で歌った。

<何だか分からない今日の名文句>

りんどう咲いて、道を知る



9月2日(月) 不審な電話

 漠然とした話だが、新宿ビル火災には「暗黒街戦争を経てファシズム前夜」の予感を感 じさせる。

 「眠らない街・新宿」にこのくらいの惨事が起こるのは、至極、当たり前である。い つ起こってもおかしくない。

 雑居ビルに入るとき、いつも「大丈夫かな?」と気にしていた。誰もがそうだろう。 でも、大丈夫だろうとビルに入る。雑居ビルの魅力に負けて入る。

 新宿に向かう人は「そこに何かがあるかも知れない」と思ってやって来る。「雑居ビ ル文化」をこよなく愛している。

 だから、そのくらいの惨事は覚悟している。

 体が不自由になってから、新宿に足を向けなくなった。「新宿にいる度胸」がなくな ったからだ。

 新宿は日本であって、日本でない。日本のヤクザが取引っている街ではない。日本を 含め、各国のならず者が「暗黒街戦争」をくり広げている。

 そこで惨事が起これば、当然”戦争勃発”を感じても当然である。インターネットの 火災中継の情報の背後にも、そんな予感がある。

 横浜の共同通信にあった謎の電話。片言の日本語で「日本人、思イ知ッタカ」を20 秒。事件と関係あるというのではなく、その電話に、思いが隠されているような気もす る。改革に反対するものは容赦しない、という「流れ」が、次第にファッション化する と、新宿は限られた「開放区」になり、もっと「魅力的だが、恐ろしい街」になる。多 分、この程度の火災は茶飯事になるかも知れない。

 断って置くが、この街に警察権力はあるが、おざなりの権力である。

 土曜日に訃報。たまちゃんのお母上がなくなった。たまちゃんは「二代目魁」特約競 馬評論家のたまちゃんである。

 お母上には面識もあり「一憲(たまちゃんのこと)を頼みます」と言われたこともあ る。

 1日午後9時、寝ていた僕はたたき起こされた。「通勤途中なんですが、病院から来 てくれと電話で言われまして」、

 「すぐ行け!」と言ったのだが、電車が新宿駅に着く前に、なくなったらしい。病院 から電話で「それでも、体が暖かかった」と伝えて来た。

 たまちゃんは、お母さん子で、お母上の言うことは何でも聞いた。

 大変なキャリアウーマン。有名ゴルフ場の幹部社員だった頃、たまたまゴルフ場のメ ンバーに毎日新聞の社長がいて「一枝さんの倅なら間違いない」と言われ、たまちゃん 、毎日新聞に入社した。

 2年ほど前、仏壇の線香が衣類に燃えつく事故で、お母上は大やけど。彼は、入院し たお母上の下の世話をして「妙な気持ちです」と笑っていた。

 たまちゃん、落ち込むだろう。俺も、母親が死んだ時、号泣した。彼の心中を思うと 、何と言っていいのか……。落ち込む。

 【訃報】松沢一枝さん 77歳 9月1日午前9時15分、相模原南病院で死去。

 通夜・9月3日午後6時

 告別式・9月4日午前12時

 相模原市古淵3−33−21 シティホール相模斎場

 TEL0427ー46−1114

 喪主・松沢一憲

<何だか分からない今日の名文句>

新宿は港町