「販売店に行ってもらう」と後輩の、でも今や上司の重役さんに言われた。新入社員研修で販売店に寝泊りした
ことはあるが‥‥不安だ。
販売店主は「1日10部、契約を取れ!」と命令した。
エッ! これ、人事異動なのか。ここだけの話だが、30数年前の新入社員研修で、お屋敷町の「猛犬に注意」の
張り紙を選んで、呼び鈴を押した。猛犬に吼えられ、中からすまなそうに現れた奥さんに「新入社員です。お願いします」
と頭を下げて1日に36部も拡張した。優秀だった。記者より販売の方が合っているかな、と思ったが、今さら‥‥。
周りを見回すと‥‥他社の記者もいる。有名人もいる。久米さんも筑紫さんも‥‥心配そうに「出来ないとクビだそうです」。
無理だ。困った。頭を掻き毟る‥‥そこで目が醒めた。
ヘンな夢を見たのは、あの友人に会ったからだろう。
「まず、実績のある仕事を奪うことから始める。絶対成功するはずがない仕事に換える。真綿で首をしめるように希望退職に
追い込む」
外資系の会社に勤める友人は約一年間、リストラ担当を勤めたが、嫌気がさして自ら希望退職した。「自分で作った希望
退職制度でガッポリ退職金を貰ってネ」と皮肉っぽく笑った。その夜、夢を見た。
成果主義導入で、成績の悪い10%がリストラされるところもある。見せ掛けの景気回復のために「負け組サラリーマン」
から雇用を奪う。高知競馬のスーパー連敗馬・ハルウララが国民的スターになったのは「負け組」の共感があったからだろう。
負けても、負けても、走り続けるウララと“リストラ寸前の亭主”をダブらして応援する主婦もいる。ところが、うれしいことに
リストラされて強くなった馬が現れた。旧三井三池炭鉱の町・九州・荒尾競馬場のキサスキサスキサス。6歳(人間なら30歳
ぐらい)の牝馬は中央競馬で5戦全敗。リストラされて、荒尾に移籍した途端、向かうところ敵なし。現在24連勝。日本新記録の
29連勝に迫っている。
「いたるところ青山あり」と思いたいのだが、彼女は“走る専門職”。場所が変わっても専門が変わらないから「リストラの星」
になれた。
(毎日新聞東京版3月16日夕刊掲載)
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