「山部一雄記者」が渡辺恒雄さんとは知らなかった

 7日に届いた雑誌類で、注目したいものが二つあった。
 一つは「世界」3月号の湯浅誠さんの「社会運動の立ち位置」。「年越し派遣村」の村長を務めた湯浅さんの「現状把握」は実に明快。「私たち(弱い立場)」がいつもストレスに晒されている原因が良くわかる。ぜひ、読んでもらいたい。
 が、このブログで取り上げたいのは、もう一つの注目論文(笑)
 サンデー毎日が準トップで掲載した「渡辺恒雄緊急寄稿、ドラマ『運命の人』にブチ切れ」である。
 何事だ? 「ブチ切れ」とは穏やかでは無い。読んでみると、実に、下世話で面白い。
 TBSドラマ「運命の人」は沖縄返還密約をめぐり、秘密文書を手に入れた元毎日新聞記者・西山太吉さんが、機密漏洩の「そそのかし」で逮捕された外務省機密漏洩事件をモデルにした話題のドラマ。
 このブログでも、何回か、紹介した。
 読売新聞グループ本社の渡辺恒雄会長・主筆が怒っているのは……(渡辺さんが、自分がモデルだという)大森南朋が演じる「読日新聞記者・山部一雄」が、料亭で「田淵角造(田中角栄?)」にペコペコしながらご馳走になったり、買収される「たかり記者」と描かれている! と言うのだ。
 怒り心頭である。
 「モデルと実在人物が特定できるように描かれ、この疑似フィクションドラマで著しく名誉を傷つけられた」と大上段に振りかざしている。
 「運命の人」の原作は「沖縄返還密約事件(外務省機密漏洩事件)」が舞台回しで、本木雅弘演じる主人公、弓成亮太(西山太吉)の勤務先が毎朝新聞(毎日新聞)とされているほか、総理大臣佐橋慶作(佐藤栄作)自由党の福出赳雄(福田赳夫)小平正良(大平正芳)などなど、モデルと思われる人物が次々に出てくる。
 が、原作を読む限りでは、弓成のライバル「読日新聞の山部一雄記者」が「ある人物」を特定しているようには読めなかった。
 当時のライバル社の記者の様々な動きを「山部記者」という架空の人物を描くことで一歩化して、表現しているのではないか? そう思っていた。
 だから「山部記者」が渡辺さんとは思わなかった。(渡辺さんが西山さんと昵懇の間と聞いてはいたが……)
 これはドラマである。主人公をことさら美化し、脇役を使って、ドロドロした舞台を作り上げる。だから、「山部記者」は主人公の「正義(で、幾分、おっちょこちょい)の記者」とは「正反対のキャラクター」になっている。
 「山部一雄」というネーミングは「渡辺恒雄」を念頭に置いているのだろう。それは「政治記者と言えばナベツネ!」というほど、渡辺さんが有名人だからだ。いわば「有名税」みたいなものではないか?
 「山部記者=渡辺さん」でない証拠は、渡辺さんが、田中派の担当記者でなく、大野伴睦の番記者だからである。ちょっとでも、政界に詳しい人間なら「山部記者」は実在する「渡辺さん」では無い、と気づくハズである。
 まして、我々、後輩記者が、渡辺さんを「たかり記者」なんて思うことは断じてない。
 確かに、「山部記者」が君をモデルにしていると聞かされれば不愉快になるだろうが……。
 俺とは関係ない「出来の悪い三文小説」と笑い飛ばせば良いものを……「ナベツネ」ファン? の後輩記者はそう思うのだが……。
 昼過ぎ、知人から電話。「ナベツネさんの寄稿が、なぜサンデー毎日に載ったのか?」と聞いて来た。
 詳しくは知らないが、某有名人が渡辺さんと会食した折、渡辺さんが「怒り」を露わにしたので、サンデー毎日の編集部に連絡。「インタビューをしたい」と申し出たら「自分で書きたい」と渡辺さんが自らの筆を取った。(毎日新聞のトップに「俺に書かせろ!」と言った、という穿った説もあるが、それこそ、名誉毀損。そんなことはない)
 改めて「緊急寄稿」を読んでみると、流石に名文である。(多分、ご本人が書かれたと思うが)週刊誌には週刊誌の書き方があるのをご存知だ。これだけの文章が書ける人はいない。
 ひょっとすると、ナベツネさん、ライターに復帰するつもりかも?
 もし、ライターに復帰されるのであれば……石川達三の小説『金環蝕』がモデルにした九頭竜ダム落札事件を書いて欲しいなあ。
 九頭竜ダム落札事件は保守政党の総裁選挙に端を発した汚職事件を描いた作品。若い時、サンデー毎日を貪るように読んだ記憶がある。
 そのあらすじ。
 昭和39年夏、与党・民政党の総裁選挙が行なわれ、現総裁にして内閣総理大臣の寺田政臣と最大派閥の領袖・酒井和明の一騎打ちとなった。数で劣る寺田総理が率いる寺田派は党内切っての実力者で副総理・広野大悟の派閥と協調して必勝を図った。その段階において両陣営とも票集めに10億円以上の実弾を投入し……。
 ああ、あの小説も、永田町の「暗い闇」が舞台。大新聞の記者が登場しているのだから、真相が知りたい(笑)
 さて、7日の日記。
 最高気温16度。暑いぐらい。午前中、執筆。夕方、TBSラジオで「嶌信彦のエネルギッシュトーク」の収録。嶌ちゃんは毎日新聞の入社で、親しい仲だから、ゲスト出演を快諾した。
 嶌ちゃん、フリーになって25年。頑張っているなあ。

<何だか分からない今日の名文句>
記者の一生は
ハンター?ライター?エディター?経営者
またライター