「映画の奈落 北陸代理戦争」を読む!
東映のヤクザ実録もの「北陸代理戦争」のラストシーンは今でも、鮮明に覚えている。
「俗に北陸三県の気質を称して越中強盗、加賀乞食、越前詐欺師と言うが、この三者に共通しているのは、生きるためにはなりふり構わず、手段を選ばぬ特有のしぶとさである」のナレーションが流れ、主人公の「川田」が病院から、大股で出てくる。
それを、病室の窓から、女がジッと見送る。
雪の町だった。
この深作欣二の実録映画最終作は、福井市・三国町・敦賀市・輪島市・金沢市を舞台に、関西・名古屋を巻き込んだ地元ヤクザの抗争を描いたものだったが、この映画が、公開直後「川田」のモデルになった「北陸の帝王」こと川内弘組長が、映画にも登場する三国の喫茶店で殺された。
ヒットマンは……川内の兄貴分である山口組大幹部・菅谷政雄の配下だった。
二人に、何が起こったのか?
この映画と、現実に起こった殺人事件は、どう結びつくのか?
当時から、興味を持っていた。(僕は、社会部警視庁捜査4課・「マル暴」担当の事件記者だった)
9日「映画の奈落 北陸代理戦争」という本を手に入れ、一晩で、読み終えた。
この本は、僕の疑問に答えるだけでなく、映画作りの裏側を実に、克明に説明してくれた。
主人公のモデル「川内」は兄弟分の菅谷を押しのけ、山口組の直参を狙っていた。
その「川田(=川内)」がラストシーンで「北陸じゃ、盃をくれた方がマトにされる。あんたも、長生きしたかったら、早目に、俺を殺した方がいいですよ」と、兄弟分に言い放つ。
このセリフが、現実の抗争に火を付けた。菅谷は、これを宣戦布告!と、思ったのだろう。
「北陸の帝王」は、脚本家が作ったセリフが元で殺された。
「奈落」である。
この本の著者は、川内の肉声を書き起こし、暴力団関係者を口説き落とし、映画関係者を絨毯爆撃して、事件とシナリオを付き合わせる作業に没頭。『北陸代理戦争』の奈落を執拗に解体する。
猛烈に面白い。
『映画の奈落 北陸代理戦争事件』(国書刊行会 2400円+税)の筆者は「伊藤彰彦」という人らしい。
ネットで調べると……1960年愛知県生まれ。映画製作者、映画史研究家。慶応義塾大学文学部卒。98年、シナリオ作家協会大伴昌司賞佳作奨励賞受賞……とあるが、どんな人なのか?
<何だか分からない今日の名文句>
脚本家は「曇天商売」(日陰の存在)