菅原文太さんのこと
30歳代前半、社会部記者だった頃だと思う。
ある人から「隣の幼稚園と土地のことでトラブルを抱える女性がいる。相談に乗ってやってくれ」と言われ、お会いしたら「菅原文太さんの夫人」だった。
菅原さんの家と、隣の幼稚園の境界がアヤフヤになっていて、長いことトラブルになっていた。
それなりに相談に乗り、その上で「この話、新聞に書くけど」と言うと、文太さん「スクープするつもりなんだ。商売だから、仕方ない」と苦笑いしていた。
鷹揚な人だ、という印象だった。
それ以上に、奥さんは、正義感の強い方で「むしろ、新聞に書いてもらった方が良い」とまで言われた。
何かにつけて、奥様が主導!という印象もあった。
それ以来、文太さんと親しくなった。
奥様が、遊びに行ったら……と言うので、 一緒に、池袋のキャバレーに行った時のことだ。
酔っ払って「兄貴、俺のワイシャツの背中に、刺青のように、サインしてくれよ」と頼んだら「良し!」と一気に書いてくれたのだが……ホステスさん達が、この「菅原文太サイン入りワイシャツが欲しい!」と言い出して、大変な騒ぎになった。その顛末は秘密だけど(笑)
何しろ、『現代やくざシリーズ』『関東テキヤ一家シリーズ』『まむしの兄弟シリーズ』『人斬り与太 狂犬三兄弟』『仁義なき戦いシリーズ』『県警対組織暴力』『トラック野郎シリーズ』……次から次へと、ヒットを飛ばし、文太さんは当時、高倉健が東映を去って以後、人気爆発の大スターだった。
親しくなると、何でも正直に話す。
「昔は、貧乏で……ある日、寒くて寒くて、仕方ないので、布団の中に、パンを焼くトースターを入れていたんだ。それをスッカリ忘れていたんだ。外出から帰ったら、アパート、焼けていた。これ、書くなよ」と半分、深刻に、半分、冗談のように話す。
正直で、愉快な人だった。
12月1日午後、「文太、死す」の悲報をテレビで知った。呆然とした。
「沖縄県知事選で、応援演説をしている」と聞いていたのに…… 高倉健さんに続く「大スターの急死」。
「時代」が一気に終わったような気がする。
高倉健さんは「様式美」のヤクザ像を演じた。
文太さんは、濃厚な広島弁を駆使した「実録ヤクザ」を演じた。
任侠ヤクザと「利益最優先」の実録ヤクザの違い。そのヤクザ像には、それぞれ「時代」があった。
その二つが「今の時代」には縁遠くなった……のかも知れない。
昨年11月20日午後、平河町の砂防会館別館で開かれた「特定秘密保護法案の廃案を求めるメデイア関係者 有志一同の集まり」で、何年かぶりに、文太さんと会い、並んで座った。
文太さんは「自由と平和」「安全な食料」「澄み渡る環境」を守る運動家になっていた。
それが文太さんとの「最後」だった。
何と言えば良いのだろうか。
言葉が出ない。
落ち着いたら、奥様に、お悔やみを……と思っている。
さようなら! 超大スター、文太さん!
<何だか分からない今日の名文句>
健さんは「綺麗なヒーロー」
文太さんは「汚いヒーロー」
二人とも「真実」を演じた